「夜に葉を閉じて眠る木」 夏! 日本の夏を3つに分けると、初夏・梅雨・盛夏となります。梅雨明けの7月中旬以降は、まさに盛夏、もの凄く暑い季節の到来です。人間共が青菜に塩となっているこの頃、樹木は蒼(そう)翠(すい)にして滴(したた)っているから凄い。6月から緑が濃くなって、7月ともなると森の中は暗くなり鬱蒼(うっそう)とします。ところが、山野や川岸の日当たりのよい場所に、淡紅色に染まるネムノキが、涼しげに花をつけているではありませんか。別称を合歓木(ごうかんぼく)といい、合歓とは、楽しみを共に分かち合うとか、夫婦仲良く同衾(どうきん)することの意。月日は百代の過客にして……のイントロで始まる奥の細道で、芭蕉は「象潟(きさがた)や雨に西施(せいし)がねぶの花」と詠っています。確かにネムノキは、夕方以降や日差しが強いと葉が垂れ下がり、眠ったように小葉(しょうよう)を閉じるから、ねぶたぎ、ねむたぎ、ねふりのき、ねむりこ等、眠りの状態の方言名が多々あります。眠りのメカニズムは葉の付け根にある葉(よう)枕(ちん)が、夜と昼の温度差によって、葉を開閉する役目を果たしているからです。ネムノキの花をよくよく見ると、まるで打ち上げ花火のよう!1つと思われた花に、10~20個もの花が集合し、その1個から筒状になった約30本の雄(お)蕊(しべ)を出し、鼻を近づけるとほんわかとした匂いを発します。英名をSilk・Treeといい、多数の雄蕊を絹に見立てたところが、何とも妖しげで艶っぽい木ですね。なるほど、繊細な合歓(ねむ)の花を越(えつ)の国の美女にたとえ、国王が西施(せいし)の色香に溺れ、国を傾けるに至ったと言うことも宜(むべ)なるかな。(安部 泰男)
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