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森に集い、森を育て、森で遊び・学ぶ 森会

油山の樹木ア・ラ・カルトjyumoku

油山の樹木ア・ラ・カルト(27)<20121月>

「郁子さんの木」

皆さんの奥様やお嬢さんorモトカノに「郁子さん」と言う女性は、いらっしゃいませんか?漢字で「郁子」と書いて「ムベ」と読みます。ムベは、アケビ科・ムベ属・つる性・常緑の木本類。別名はトキワアケビ(常磐通草)ですが、その他にもウベ、グベ、フユビ、イノチナガ、コッコなどの方言名も多く、人間との関わりの深い植物であったことが分かります。油山でもごく普通に自生しており、葉が常緑で美しいため、民家の垣根などに棚仕立てされているのを見かけます。長い葉柄の掌状複葉は、幼木の頃は三小葉ですが、成長するに従って五から七小葉となり、七小葉で結実することから、七五三蔓(シチゴサンヅル)とも言われています。日本では、一・三・五・七・九の奇数を祝儀の数としていますが、両端の一と九をカットして、真ん中の七・五・三をとって嘉祥または瑞祥と呼び、長寿や延寿の縁起木としました。お正月に門戸または神棚に張る注連縄も、同じく七五三縄(しめなわ)で表し、わらの茎を左へ三筋・五筋・七筋に捻り上げて作ります。また、男児が3歳と5歳、女児が3歳と7歳になると、子どもの成長を願って、1115日に氏神様へ参詣する行事が七五三(しめ)の祝いです。ムベの果実の特徴は、果実がアケビ(通草)の様に縦に裂開せず、熟成しても閉塞したままです。暗紅紫色の果実を割ると、中の黒い種子を囲む果肉はアケビよりも甘く、昔は砂糖の代用品として使われました。名前の由来については、天智天皇が近江に行啓された折、そこにいた老夫婦に長寿の秘訣を尋ねられたところ、「この実を食べております」と言ってムベの実を差し出し、天皇が「むべ(宜=なるほど、もつとも)なるかな」と仰せられたとか。それ以後、ムベの実に蔓と葉を付けたまま、皇室に献上されていたとの記録があり、ムベが大贄(おおにえ)(地方の特産物や珍品を皇室に献上)の1品目であったことは明らかです。ところで、肝心の郁子さんです。「郁」はムベの花や果実の馥郁(ふくいく)とした香りと、常緑の葉と蔓が伸びる盛んな様を言い、「子」は果実とか種子の意味から、郁子という漢字が当てられたものと思います。植物名については、山野草をはじめ樹木名もカタカナではなく、漢字で表すと名前の由来やその植物に対するイメージが湧いてきて楽しいですね。(安部泰男)

 
 
 
 
 

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